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そのトレーニング、何のためにやっていますか?

SNSを開けば、トップアスリートや強豪校が取り組んでいる練習を簡単に見ることができます。

「この選手はこのドリルをやっている」

「この学校はこんなメニューを組んでいる」

「このトレーニングで速くなったらしい」

そんな情報を見て、「これ良さそうだな。自分もやってみよう」と思った経験がある人も多いのではないでしょうか。

新しいトレーニングを知り、試してみること自体は悪いことではありません。むしろ、自分が知らなかった方法に触れることは、より競技を学ぶきっかけになります。

だから、私は「トップ選手の練習を真似してはいけない」と言いたいわけではありません。

ただ、その前に一つだけ問いを置きたいのです。

そのトレーニングで、自分の何を変えたいのでしょうか。

「何をやるか」を決める前に、「なぜやるのか」「何を変えたいのか」を考える。

それだけで、日々のトレーニングの見え方は少し変わると思っています。

目次

トレーニングの情報は、簡単に手に入るようになった

私が学生だったころと比べても、トレーニングに関する情報へのアクセスは大きく変わりました。

トップアスリートが自分の練習動画を公開する。強豪校の練習風景を見る。国内だけでなく、海外の選手やコーチの発信にも触れられる。

競技者にとって、これは大きなメリットです。

以前なら、実際にそのチームへ行ったり、指導者から教わったりしなければ知ることのできなかった方法を、今ではスマートフォンを通して知ることができます。

一方で、メニューだけが切り取られて目に入ることもあります。

たとえば、あるトップ選手が「150m×3」を走っていたとします。

画面に映るのは、その日のメニューです。

しかし、その選手がなぜ150mを選んだのか。その時期に何を改善しようとしていたのか。どのくらいの強度で走り、どのくらい休み、前後の日には何をしていたのか。そもそも、その選手にはどんな競技上の課題があったのか。

そこまでは分からないこともあります。

問題は「真似すること」ではない

真似から始めてもいいと思います。

私自身も、他の選手の動きや練習を見て、「やってみたい」と思うことはあります。実際にやってみたからこそ分かることもあります。

ただし、

「有名な選手がやっている」という事実と、「今の自分に必要である」という判断は別です。

同じトレーニングでも、競技種目、選手の現在地、トレーニング歴、シーズンの時期、強度、本数、休息時間などによって、その意味は変わります。

NSCA(National Strength and Conditioning Association)がTactical Athlete向けに公開している「特異性」を扱った資料の中で、明確なトレーニング目標を設定することが、プログラムの方向づけや適切な進行につながると説明しています。

大切なのは、「誰がやっているか」だけを見るのではなく、「何のためにやっているのか」まで考えてみることです。

参考:National Strength and Conditioning Association, “Specificity and the Tactical Athlete”

トレーニングは、目的を達成するための手段

ここで一度、「目的」「問題」「課題」「狙い」「手段」を整理してみます。

言葉の定義にはさまざまな考え方がありますが、この記事では次のように捉えます。

目的:自分が実現したい姿、ありたい姿

現在地:いまの自分の状態

問題:目的と現在地とのギャップ

課題:そのギャップを埋めるために取り組むこと

狙い:その取り組み(トレーニング)によって具体的に何を変えたいのか

手段:その変化を起こすために実際に行うトレーニング

たとえば、100mを走る競技者がいるとします。

仮に「10秒台で走りたい」という目的があるとしましょう。

現在の自己ベストは11秒30。レースを振り返ると、特にスタートから加速局面で10秒台の競技者との差が広がっている。

理想と現在地の間にはギャップがあります。これが問題です。

そのギャップを埋めるため、「加速局面のパフォーマンスを改善する」という課題を設定する。

さらに、その日のトレーニングでは「加速局面での力発揮や動きを改善する」といった狙いを設定し、そのための手段として短い距離の加速走や筋力トレーニングなどを検討する。

もちろん、実際のトレーニング計画はこれほど単純ではありません。問題が一つとは限りませんし、複数の課題が絡み合うこともあります。一つのトレーニングに複数の狙いが含まれることもあるでしょう。

それでも、大きな流れとしては、

目的 → 現在地 → 問題 → 課題 → 狙い → 手段

という順番で考えることができます。

ここで重要なのは、普段私たちが「練習メニュー」と呼んでいるものは、最後の「手段」に位置しているということです。

ところが、情報を探していると、私たちは簡単にこの順番を逆にしてしまいます。

「坂ダッシュがいいらしい」

「このドリルが流行っている」

「この選手はウェイトでこの種目をやっている」

まず手段を見つけ、そこから自分に当てはめようとする。

でも、その前に考えたいことがあります。

自分は、何を変えたいのか。

「何をやるか」の前に、「何を変えたいか」

ここが、この記事で一番伝えたいことです。

方法から考えるのではなく、課題から考える。

「良いトレーニング」を探すことよりも、「今の自分には何が必要なのか」を考える。

たとえば、同じ150m走でも、すべての選手が同じ狙いで行っているとは限りません。

高いスピードを維持することを狙う場合もあれば、400mに向けて一定の負荷をかける場合もある。シーズンや選手の状態によっては、また別の狙いがあるかもしれません。

さらに、同じ150mでも、1本なのか、3本なのか。どの程度の強度なのか。レストは3分なのか、10分なのか。

条件が変われば、身体に与える刺激も、トレーニングとしての意味も変わります。

だから、

「150m走は何に効きますか?」

と聞かれても、本当はそれだけでは少し答えにくい。

誰が、いつ、どんな課題に対して、どのような設定で行うのか。

そこまで考えて、初めてそのトレーニングの意味が見えてきます。

ACSM(American College of Sports Medicine)が2026年に公表したレジスタンストレーニングの紹介においても、画一的な処方から離れ、個人の目標などに応じてプログラムを個別化することの重要性が示されています。アスリートについては、競技やトレーニング目標に応じた特異的な計画が必要になるとも説明されています。

これは主にレジスタンストレーニングについての指針ですが、「誰にでも同じものを当てはめるのではなく、目標に応じて考える」という視点は、競技トレーニングを考えるうえでも参考になります。

参考:American College of Sports Medicine, “ACSM Unveils Landmark 2026 Resistance Training Guidelines”

「これをやれば速くなる」ではなく、「自分には何が必要か」

速くなるために有効なトレーニングはたくさんあります。

だから、新しい方法に興味を持つこともそれを試すことも否定する必要はありません。

ただ、「これさえやれば速くなる」と一つのメニューに答えを求めてしまうと、本来考えるべき自分の現在地や課題が見えにくくなります。

同じ選手であっても、今必要なことは変わります。

冬に必要だったトレーニングと、試合直前に必要なトレーニングは違うかもしれない。

去年必要だったものが今年も同じように必要とは限らない。

だから私は、

「良いトレーニングは何だろう?」

だけでなく、

「今の自分に必要なトレーニングは何だろう?」

と考えてみることが大切だと思っています。

最初から正解を知っている必要はない

とはいえ、生徒・学生の競技者が自分ですべてのトレーニング理論や生理学を理解し、毎日のメニューの狙いを完璧に説明する必要があるとは思いません。

分からないことがあって当然です。

「今日の300mは、後半の粘りをつけるためなのかな」

「なぜ今日は本数が少ないんだろう」

「このドリルは、自分の走りのどこを変えるためなんだろう」

最初は、このくらいでもいい。

正しい答えを知っていることよりも、「なぜだろう」と問いを持つことから始める。

ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)が公開するS&C分野の資料では、トレーニングの基本原則として「特異性」「個別性」「意識性」などが挙げられています。

また、アスリート自身がトレーニングの意義を正しく理解し、主体的に取り組むことも重視されています。

ただ言われたことをやるのではなく、「これは何のためだろう」と意識を向ける。

この記事で伝えたいこととも重なります。

参考:ハイパフォーマンススポーツセンター「HPSCパッケージ S&C分野の概要」

私も、思考停止で死ぬほど走っていた

ここまで書いてきましたが、私自身ずっとこんなことを考えながら練習できていたわけではありません。

むしろ、思考停止で死ぬほど走っていた時期があります。

大学時代、元日本記録保持者を指導していたコーチに師事する期間がありました。

初めてトレーニング計画を見たときは、面食らいました。

とにかく走る量がものすごい。記憶に残っているメニューの一つが、

300m×10本。1本40秒を切る設定で、レストは5〜7分程度。

かなり厳しいトレーニングでした。

コーチからは、「君たちに技術はまだ必要ではない。まずは体力だ」という趣旨の言葉をいただいた記憶があります。

もちろん、技術的なトレーニングがまったくなかったわけではありませんが、とにかく走りました。

そして私も他のメンバーも、多くの場合はメニューを「こなす」だけで精一杯になっていました。

ここでは、そのトレーニングの良し悪しを論じたいわけではありません。

今になって思うのは、当時の自分がもっと問いを持っていてもよかったということです。

「なぜ300mを10本なんだろう」

「なぜ40秒という設定なんだろう」

「なぜレストが5〜7分なんだろう」

「この設定で、身体にどんな刺激を与えようとしているんだろう」

「このトレーニングで、自分の何を変えたいんだろう」

そんなことを自分なりに考えたり、コーチに聞いたりしていたら、同じ300m×10本でも、取り組む姿勢や振り返り方は変わっていたかもしれません。

それによってトレーニング効果がどれほど変わったかは分かりません。

でも少なくとも、

「今日もきついメニューをなんとか終えた」

で終わるのではなく、

「今日は何を狙って、何ができたのか」

と考える材料にはなったはずです。

「こういう狙いなのかな?」から始めていい

自分で考えるというと、難しく聞こえるかもしれません。

でも、最初から答えを当てる必要はありません。

仮説でいいのです。

「こういう狙いなのかな?」

「自分にはこの部分が必要だから、この練習をするのかな?」

そう考えながら、やってみる。

そして、終わったあとに振り返る。

予想した感覚だったのか。

設定したタイムで走れたのか。

動きはどうだったのか。

疲労はどうだったのか。

分からなければ、指導者に聞いてみる。

「今日のこのメニューは、何を狙っていますか?」

その一言だけでも、トレーニングを見る目は少し変わると思います。

考える → やってみる → 振り返る → また考える。

この繰り返しが、トレーニングを「与えられたもの」から「自分のもの」にしていくのではないでしょうか。

トレーニングを「こなす」前に考えたい3つの問い

毎回、目的・問題・課題・狙い・手段をノートいっぱいに整理する必要はありません。

まずは練習前に、3つだけ考えてみてください。

① 今日、自分の何を変えたい?

自分の課題は何か。

その中で、今日のトレーニングでは何を変えたいのか。

完璧な言葉でなくても構いません。

② このトレーニングは、どう役立つ?

「このメニューをやる」から一歩進んで、「なぜこのメニューなのか」を考えます。

分からなければ、仮説を立ててもいいし、指導者に聞いてもいい。

③ 終わったあと、何を振り返る?

タイムなのか。

動きなのか。

身体の感覚なのか。

狙いがあれば、振り返るポイントも見えやすくなります。

そして、思ったような変化がなければ、

「この方法でいいのだろうか?」

と、また考える。

トレーニングは、やって終わりではありません。

トレーニングを「こなす」から、「考えて取り組む」へ

SNSでトップ選手の練習を見ることも、強豪校のメニューを参考にすることも、新しいトレーニングを試すことも、私はどんどんやっていいと思っています。

情報が手に入ることは、大きな武器です。

だからこそ、「何を知っているか」だけではなく、「その情報をどう使うか」を考えたい。

有名な選手がやっているから。

強豪校がやっているから。

流行っているから。

そこから始まってもいい。

でも、そこで終わらない。

「なぜ、このトレーニングをやるんだろう」

「自分には、どんな課題があるんだろう」

「このメニューで、自分の何を変えたいんだろう」

一つ、問いを置いてみる。

トレーニングを「こなす」状態から、「考えながら取り組む」状態へ。

問いを持ちながら、やってみる。

やったことを振り返り、また問い直す。

その積み重ねが、自分に必要なトレーニングを考える力につながっていくのだと思います。

そのトレーニングは、何を変えるためにやっていますか?

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この記事を書いた人

WILLINQ JOURNAL編集部。

スポーツ指導、競技経験、人材育成の実務経験をもとに、スポーツとの向き合い方、Will、目的と手段、学びについて発信しています。

答えを急ぐのではなく、問い、迷い、経験し、振り返る。
その過程で、自分なりのWillを育てていくためのきっかけを届けます。

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