同じ練習を全員でやるのは、悪いことなのか?

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「なんで全員、同じメニューなんだろう?」

同じ長距離グループで練習している。

5000mのタイムは違う。
得意な走り方も違う。
抱えている課題も違う。
次の重要な大会までの期間も違う。

それでも、全員が同じメニューをやっている。

そんなとき、「自分にも、この練習が必要なのだろうか?」と思うことはないでしょうか。

トレーニングでは「個別化」という言葉も使われます。
一人ひとり違うのだから、それぞれ違うメニューをした方がよい。
そう考えるのも自然です。

しかし、

全員同じ=悪い。個別メニュー=良い。

と単純に分けられるのでしょうか。

大切なのはメニューが同じかどうかではなく、

そのトレーニングが、いまの自分の課題・時期・状態に合っているか。

だと思います。

「全員同じ=悪い」とも限らない

競技者が違えば、すべてを変える必要があるわけではありません。
例えば、長距離グループ全体として、

有酸素能力を高める。
一定のペースで走る力を高める。

という共通した狙いがあるなら、全員で同じ種類のトレーニングに取り組むことはできます。

同じ時間ジョギングをする。
同じ距離のインターバルを行う。
同じ補強トレーニングに取り組む。

共通して必要な能力があるなら、一緒に取り組むことにも意味があります。

また、集団で走ることでペースをつくりやすくなったり、互いに刺激を受けたりすることもあります。

個別化とは、一人ひとりにまったく違うメニューを用意することではありません。

問題は、みんながやっているから、という理由だけで全員に同じものを当てはめることです。

同じメニューでも、同じ負荷とは限らない

例えば全員で、1000m×5本を行うとします。
メニュー表だけを見れば、全員同じです。

しかし、5000mを15分30秒で走る競技者と17分00秒で走る競技者では、同じ3分20秒で1000mを走ったとしても、その負荷は同じではありません。

そこで、

Aさんは3分10秒。
Bさんは3分30秒。

と、それぞれの競技力や狙いに合わせて設定することもできます。

さらに、レストをどのくらい取るのか、どの程度の余裕を持って走るのかによっても、トレーニングの意味は変わります。

スポーツ科学では、走った距離や速度など、競技者が実際に行った仕事をexternal load(外的負荷)、それに対する心拍数や主観的運動強度などの身体的・心理的な反応をinternal load(内的負荷)として区別して考えます。
トレーニング負荷を把握する際には、両者を合わせて見ることが重要だとされています。

参考:Bourdon et al.「Monitoring Athlete Training Loads: Consensus Statement」

つまり、同じメニューに取り組んでも、競技者にかかる負荷まで同じとは限りません。

同じ「1000m×5本」でも、設定や競技者の状態によって負荷は変わります。

「何を同じにして、何を変えるか」と考える

そこで、

全員同じにするか。
全員別々にするか。

ではなく、

何を共通にして、何を一人ひとりに合わせるのか。

と考えてみます。

例えば、1000m×5本という大枠は共有する。
そのうえで、競技力に応じて設定タイムを変える。
コンディションを見て、本数を調整する。
狙いによってレストを変える。

同じメニューの中でも、個別に調整できることはあります。
その判断材料になるのが、

現在の課題は何か。
競技力やトレーニング経験はどうか。
コンディションはどうか。
いつピークを合わせたいのか。

といった違いです。

この記事では、個別化を「全員に違うメニューを用意すること」ではなく、「必要な違いをトレーニングに反映すること」と捉えてみます。

大会までの時間が違えば、同じでいいとは限らない

例えば、同じ長距離グループに2人の競技者がいるとします。

Aさんは2週間後に、今シーズンで最も重要な5000mの大会を迎える。
Bさんは、8週間後の大会にピークを合わせたい。

同じグループだからといって、この2人が同じ量、同じ強度のトレーニングをする必要があるとは限りません。
Aさんは、これまで積み重ねてきたトレーニングの疲労を調整しながら、大会へ向けて状態を整えていく時期かもしれません。
一方、Bさんはまだトレーニングを積みたい時期かもしれない。

それでも、

今日のメニューは1000m×5本だから、全員5本。

としてしまえば、大会までの時間という重要な違いが反映されません。

以前の記事「調子が悪い日は、練習メニューを変えてもいいのか?」では、同じ競技者でも、その日の状態によってトレーニングを調整することを考えました。

今回は、それを競技者同士の違いにも広げます。

同じ人でも状態は変わる。違う人なら、必要な刺激が違うこともある。

だから、メニューだけでなく競技者を見る必要があります。

個別調整が有効な場合もある。ただし、万能ではない

一方で、「一人ひとりに合わせれば合わせるほどよい」とも限りません。

長距離走でも、回復状態やトレーニング状況をもとに負荷を個別調整する研究があります。

2022年に発表されたレクリエーショナルランナー(市民ランナー)を対象とした研究では、回復状態などをもとにトレーニング量を調整したグループと、事前に決められたプログラムを行ったグループの両方でパフォーマンスが向上し、個別調整したグループでは10km走の改善がより大きかったと報告されています。
もっとも、対象者数の限られた一つの研究であり、「個別化すれば必ず優れる」と一般化することはできません。

参考:Nuuttila et al.「Individualized Endurance Training Based on Recovery and Training Status in Recreational Runners」

この研究は、状態に応じた個別調整が有効になり得る一例です。
ただし、対象は30人の市民ランナーであり、この一研究から「個別化すれば常に優れる」と一般化することはできません。

「みんながやるから」から、「自分がやる理由」へ

ここでもう一つ考えたいのが、競技者自身がそのトレーニングをどう捉えているかです。

例えば、

今日は1000m×5本。

と伝えられた。
正直、好きな練習ではない。
それでも、

自分は5000mの後半でペースを維持できなくなる。
今日は一定の速度で繰り返し走ることで、その課題に取り組む。

と、自分が取り組む意味を理解できている。

そうすれば、

なら、今日はこの練習に取り組もう。

と、自分のトレーニングとして引き受けることができます。

これは、「みんながやっているから仕方なくやる」のとは違います。

自己決定理論では、活動自体が楽しいという内発的動機づけだけでなく、その行動の価値や重要性を自分自身で認めて取り組むことも、比較的自律的な動機づけとして整理されています。

競技スポーツの練習を直接検証した研究ではありませんが、運動領域のシステマティックレビューでは、こうした自律的な動機づけと運動行動との正の関係が報告されています。

参考:Teixeira et al.「Exercise, physical activity, and self-determination theory: a systematic review」

自分で決めるとは、好きな練習だけを選ぶことではありません。

なぜ自分に必要なのかを理解し、その意味を自分でも認めて取り組む。

それも、自分のトレーニングを自分で引き受けるということだと思います。

疑問があるなら、勝手に変える前に聞いてみる

それでも、「自分にはこの練習が必要なのだろうか?」と疑問を持つことはあります。

そんなとき、「みんなと同じだから黙ってやる」でも、「自分には合わないから勝手に変える」でもない方法があります。

指導者に、

今日の1000m×5本は、何を狙っていますか?

と聞いてみる。

あるいは、

自分は2週間後の5000mにピークを合わせたいのですが、今日は5本とも行う意図を知りたいです。

と、自分の状況も伝える。

説明を聞けば、「その狙いなら、自分にも必要だ」と理解できるかもしれません。

逆に、競技者から大会日程や状態を共有したことで、設定や本数が調整されることもあるでしょう。

「同じだからやる」と「勝手に変える」の間に、対話があります。

同じか違うかより、自分に必要か

同じ練習を全員でやることは、悪いことではありません。
共通する課題があり、同じ種類の刺激が必要なら、一緒に取り組むことにも意味があります。
一方で、競技力や課題、大会までの時期、コンディションに重要な違いがあるなら、調整することもできます。

設定タイムを変える。
本数を変える。
レストを変える。
必要ならメニューそのものを変える。

個別化とは、全員に違うメニューを与えることではなく、必要な違いをトレーニングに反映することです。

そして競技者自身も、「みんながやるから」で終わらせない。

この練習は何を狙っているのか。
自分のどんな課題につながっているのか。
分からなければ、指導者に聞いてみる。

その意味を理解したうえで、「自分はこれに取り組む」と決める。

同じ練習か、違う練習か?それより先に、自分に問いかけたいことがあります。

その練習を、自分がやる意味を説明できますか?

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この記事を書いた人

WILLINQ JOURNAL編集部。

スポーツ指導、競技経験、人材育成の実務経験をもとに、スポーツとの向き合い方、Will、目的と手段、学びについて発信しています。

答えを急ぐのではなく、問い、迷い、経験し、振り返る。
その過程で、自分なりのWillを育てていくためのきっかけを届けます。

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