「勉強に集中したいので、部活を辞めたいです」
生徒からそう言われたら、指導者はどう対応すればよいのでしょうか。
先日、高校生から退部を申し出られたとき、指導者はどう対応すべきかを考える機会がありました。
もう少し頑張れないのか。
部活動と勉強は両立できないのか。
ここまで続けてきたのにもったいないのではないか。
指導者として、そう考えることもあるでしょう。
ただ、私は一つ気になりました。
その生徒が辞めたいと思った理由を、本人のやる気だけで説明してよいのでしょうか。
もしかすると、指導者がつくっている環境にも、何か見直すべきことがあるかもしれません。
今回は、退部を考える高校生と、その意思を受け止める指導者の双方から考えてみます。
辞める自由はあるが、それでも考えてほしいこと
部活動を続けるかどうかは、本人が考え、選ぶことです。
一度入部したからといって、卒業まで続けなければならないわけではありません。
競技への関心が変わることもあれば、勉強やほかの活動に時間を使いたくなることもあります。
嫌々続けることだけが正解ではないと思います。
ただ、辞めたいと思ったときには、一度考えてみてほしいことがあります。
辞めたいのは、そのスポーツですか。それとも、いまの部活動ですか。
競技そのものへの意欲がなくなったのか。
練習が負担になっているのか。
指導者や部員との関係に悩んでいるのか。
あるいは、もっと優先したいことができたのか。
同じ「辞めたい」でも、その背景は人によって違います。
競技から離れたいのであれば、辞めることも一つの選択です。
一方、現在の活動体制が負担になっているのであれば、休むことや関わり方を変えることで、続けられる場合もあるでしょう。
もちろん、無理に続ける理由を探す必要はありません。
大切なのは、自分が何から離れ、これから何を大切にしたいのかを考えることです。
スポーツ推薦で入学した場合は、もう一つ確認したい
スポーツ推薦などで入学した場合は、入学時の募集要項や、奨学金・寮などの利用規程を確認しておきたいところです。
退部がそれらの制度にどう関係するかは、
学校や制度によって異なります。顧問に相談しにくい場合は、担任や学校の担当部署など、別の窓口で確認してもよいでしょう。
だからといって、推薦で入学した生徒には辞める自由がない、という話ではありません。
ただ、推薦の条件や学校の規定はそれぞれ異なります。
退部後の学校生活にどのような影響があるのか、決める前に確かめておくことは大切です。
顧問に相談しにくければ、保護者や担任、進路指導の先生など、別の相手に相談してもよいでしょう。
自分で選ぶためには、その選択によって何が変わるのかを知ることも必要です。
辞めることと、辞め方は別の問題
退部を考えるとき、もう一つ知っておいてほしいことがあります。
それは、辞めた後の人間関係も変わり得るということです。
昨日まで一緒に練習し、同じ大会を目指していた仲間と、明日からも同じ時間を過ごすわけではありません。
顔を合わせる機会が減れば、会話や関わり方も変わっていくでしょう。
その変化を、すべて「冷たくされた」「裏切られた」と捉える必要はありません。
一方で、退部を理由に無視されたり、嫌がらせを受けたりすることまで、仕方がないと受け入れる必要もありません。
関係性が変わることと、退部した人を不当に扱うことは別の問題です。
退部するとき、周囲にどう伝えるか
例えば、大会が近づいている中で、顧問にも仲間にも伝えず、突然活動に来なくなったとします。
リレーのメンバーや大会運営の係を引き受けたまま連絡を絶てば、残された部員は急な対応を迫られるかもしれません。
また、退部への不満を、関係者に伝える前にSNSで仲間への攻撃として発信すれば、退部そのものとは別の問題を生むこともあります。
辞めるという選択が悪いのではありません。
その選択をどう伝え、必要なことをどう整理するかによって、残る関係が変わることもあるという話です。
辞める意思が固まったら、可能な範囲で、自分の言葉で伝える。
理由をすべて説明する必要はありませんが、引き受けている役割があれば、引き継ぎや調整について相談する。
それは、退部することへの謝罪ではなく、これまで一緒に活動してきた人たちとの関係に区切りをつけるための行動です。
ただし、指導者からの威圧やハラスメントなどによって安心して活動できない場合は別です。
本人が直接説明したり、活動を続けたりすることを優先せず、保護者や担任、管理職など、安全に相談できる相手を頼ってほしいと思います。
参考:学校における体育活動中の体罰・ハラスメント等の根絶及び事故防止について
また、大会が近いから辞められない、仲間が困るから辞めてはいけない、という話でもありません。
どれだけ丁寧に伝えても、残念に思う人はいるでしょう。
以前と同じ距離感で接してもらえないこともあるかもしれません。
辞め方は選べる。相手の受け止め方までは選べない。
自分でできることを考えて、区切りをつける。
そのうえで、退部後の関係性が変わる可能性も理解しておきたいところです。
ただし、禍根を残す原因が生徒の辞め方にだけあるとは限りません。
本人が丁寧に意思を伝えても、指導者が「ここまで面倒を見たのに」「最後まで続けないのか」と責めれば、その関係に傷が残ることがあります。
生徒自身が可能な範囲で意思や必要なことを伝えられると、退部に伴う調整を進めやすくなります。
一方で、本人に直接説明させることや、すべての調整を任せることが適切とは限りません。
指導者にも、その意思を受け止め、安全に手続きを進める役割があります。
では、辞めたいと言われた指導者は、最初に何をするべきなのでしょうか。
「勉強に集中したい」を、そこで終わらせない
「勉強に集中したいので、部活を辞めたいです」
そう言われたとき、指導者はつい、
「勉強と部活は両立できるだろう」
「もう少し頑張ってみないか」
「辞めた後は何をするつもりなんだ」
と、説得や今後の話へ進みたくなるかもしれません。
しかし、私はまず、本人の話を聞くことから始めたいと思います。
勉強に集中したいと思うようになったのは、なぜなのか。
部活動の何が負担になっているのか。部活そのものについては、いまどう感じているのか。
本当に勉強を優先したいのかもしれません。
練習との両立が難しくなっているのかもしれません。
あるいは、人間関係や指導方法など、最初には話しにくい問題がある可能性もあります。
だからといって、
「勉強は建前で、本当は別の理由があるんだろう?」
と問い詰めるのは違います。
理由を疑うのではなく、理由の奥行きを知ろうとする。
本人が話せる範囲で、何を経験し、何を考えているのかを聞く。
指導者が想像していたこととは違う問題が、そこから見えてくるかもしれません。
引き止めることが、動機づけではない
退部を考えている生徒に、動機づけが必要な場合もあるでしょう。
競技への意欲が一時的に下がっているのであれば、これまでの成長を振り返ったり、新しい目標を考えたりすることで、もう一度取り組みたいと思えることもあります。
ただし、動機づけの目的を、退部を撤回させることにしてはいけないと思います。
本人が迷っているなら、活動日数の調整や一定期間の休養など、可能な選択肢を一緒に考える。
一方、十分に考えたうえで退部の意思が固まっているなら、それ以上の引き止めが適切とは限りません。
指導者の役割は、説得して部に残すことではなく、本人が納得して選べるように支えることではないでしょうか。
「本人のやる気」で、説明を終わらせていないか
ここからが、今回もっとも考えたいことです。
生徒が退部することになったとき、「本人のやる気がなくなった」という説明で終わらせていないでしょうか。
もちろん、本人の関心や優先順位が変わることはあります。
競技への意欲がなくなったという理由で辞める人もいるでしょう。
ただ、その説明だけで終わらせると、指導者や組織が提供している環境について考える機会を失ってしまいます。
練習の狙いを十分に共有できていたでしょうか。
生徒が自分の意見を伝えられる機会はあったでしょうか。
学業と両立できる活動体制だったでしょうか。
部員同士の関係に、見落としていた問題はなかったでしょうか。
そして何より、
生徒が「辞めたい」と言い出す前に、困っていることを話せる関係をつくれていたでしょうか。
退部の理由には、指導者が改善できることもあるかもしれません。
それを本人の意欲だけの問題として片づければ、次に同じような生徒が現れたときにも、何も変わらないままです。
特に、複数の生徒が同じ時期に退部を申し出るのであれば、一人ひとりの理由だけでなく、共通する経験や活動体制にも目を向ける価値があります。
ただし、退部者が出たこと自体を、指導者の失敗と考える必要もありません。
本人の希望と、部が提供できる環境が合わないこともあります。
一人の生徒の希望に合わせて、すべての活動方針を変えられるわけでもありません。
それでも、自分たちの側に改善できることはなかったかを、最初から検討対象から外さない。
そこに指導者としての学びがあると思います。
引き止めることを、指導の成果にしない
本人の話を十分に聞き、部として調整できることを考えても、退部という結論になることはあります。
その場合は、本人の選択を尊重すればよいと思います。
一方で、退部を申し出た生徒が考え直し、活動を続けることになったとしても、それだけで良い対応ができたとは限りません。
指導者に申し訳ないから。
仲間に迷惑をかけたくないから。
辞めると言い出したことを責められたくないから。
そんな理由で続けることにしたのであれば、本人が抱えていた問題は解決していないかもしれません。
だから、退部を思いとどまらせた人数を、指導の成果にするべきではないと思います。
指導者の仕事は、辞めさせないことではなく、本人が納得して選べるように支えること。
その結果、続けることもあれば、辞めることもある。
そして指導者は、対話の中で得られた気づきを次の指導や環境づくりに生かしていく。
本人の選択を尊重することと、自分の指導を振り返ることは、両立できます。
「辞めたい」は、指導を振り返るきっかけにもなる
「勉強に集中したいので、部活を辞めたいです」
この言葉を聞いたとき、本人のやる気の問題として片づけることもできます。説得して引き止めようとすることもできるでしょう。
でも、その前にできることがあります。
まず、本人が何を考えているのかを聞く。そして、続けることも辞めることも含めて、本人が納得できる選択を支える。
そのうえで、自分たちが提供してきた環境に、見直すべきことはなかったかを考える。
退部届は、その生徒が部活動との関わり方を変える意思表示です。同時に、指導者にとっては、自分たちの活動を振り返るきっかけにもなり得ます。
もちろん、退部の理由がすべて指導者にあるわけではありません。ただ、指導者には、生徒が活動する環境をつくる役割があります。
だからこそ、生徒が辞めたいと思ったとき、その理由を本人の内側だけに探してはいけないと思います。
生徒には、自分の選択を考えてほしい。指導者には、その選択が生まれた環境も考えてほしい。
その「辞めたい」を、本人のやる気だけで説明していませんか?