フィードバックは何のためにするのか?

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そのフィードバックは、誰のためにしていますか?

「もっと腕を振って」
「いまのスタートは身体が起きるのが早い」
「最後まで集中しよう」

スポーツの指導現場では、指導者から競技者へ多くの言葉が投げかけられます。

動きを見れば気になるところがあるし、良くなったところにも気づくからこそ、伝えたくなる。
私自身も指導していると、つい言葉をかけたくなります。

でも、そこで一度考えてみたいことがあります。

なぜいま、その言葉を伝えようとしているのでしょうか。

競技者の成長に必要だからなのか。
自分が気になったからなのか。
あるいは、自分が考える理想の動きに近づけたいからなのか。

同じ言葉でも、その出発点は違います。

WILLINQでは、フィードバックを

「相手が自分の現在地に気づき、次の行動を考えるために返す情報」

と捉えてみたいと思います。

そう考えると大切なのは「自分が何を言いたいか」だけではありません。

この言葉は、目の前の競技者の何につながるのか。

フィードバックをするとき、まずそこから考えてみたいと思います。

フィードバックは「直す」ためだけのものではない

フィードバックと聞くと、改善点を指摘する場面を思い浮かべるかもしれません。

「ここができていない」
「ここを直した方がいい」

もちろん、これもフィードバックの一つです。

ただ、フィードバックの役割を「間違いを直すこと」だけに限定する必要はありません。

フィードバックの一つの役割は、現在地を返すこと

例えば100mのスタート練習をしている競技者がいたとします。

本人はうまく走れたと思っている。一方、指導者から見ると3歩目あたりから身体が起き始めている。

そこで、

「今日は3歩目くらいから、いつもより身体が早く起きているように見えたよ」

と伝える。

これは、その場では競技者自身が気づきにくい情報を、外側から返しています。

本人は、「自分では前に進めている感覚だったけれど、外からはそう見えるのか」と自分の現在地を確認できます。

指導者が一方的に答えを示すというより、本人が自分を知るための鏡を渡すようなイメージです。

UK Coachingでも、外部からのフィードバックはパフォーマンスの修正だけでなく、自己認識や自己評価を促すものとして整理されています。

参考:UK Coaching「Understanding Your Coaching Practice Guide」

良かったことを返すこともフィードバック

改善点ばかりを探す必要もありません。

「いまのスタートは、1本目より身体の角度を保てていたね」

これもフィードバックです。

「いいね」で終わらず、何が良かったのかまで返すことで、競技者はうまくいった動きを再現する手がかりを得られます。

フィードバックは失敗を修正するためだけではなく、うまくいったことに気づくためにも使えるのです。

自分が言いたいことと、相手に必要なことは同じか

指導していると、いろいろなものが見えます。

腕振り、姿勢、接地、表情、練習への入り方。

指導経験や知識が増えるほど、気づくことも増えていきます。

でも、見えたことを全部伝えることが、良いフィードバックなのでしょうか。

指導者にはたくさんのことが見える

例えば100mのスタートを見て、

  • 身体が起きるのが早い
  • 腕振りが小さい
  • 1歩目の接地が前にある
  • 顔が上がっている

という4つのことが気になったとします。

全部伝えることはできます。

しかし競技者は次の一本で、

「身体を倒して、腕を振って、接地を近づけて、顔を上げないようにして……」

と考えることになります。

これでは何に集中すればいいのか分からなくなるかもしれません。

指導者には10個見えていても、いまの競技者に必要なのは1個かもしれない。

見えていることを全部言うことと、良いフィードバックをすることは同じではありません。

フィードバックが自己満足になっていないか?

これは私自身も気をつけたいところです。

指導者としてその場にいると、何か言わなければならないような感覚になることがあります。
黙って見ているだけでは「指導していない」ような気がして、気づいたことをすぐ伝えたくなる。

でも、その言葉は本当に競技者のためなのでしょうか。

それとも、指導している自分自身が安心するためなのでしょうか。

だから言葉を投げる前に、

「この情報は、いまこの人に必要だろうか」

と一度考えてみる。

それだけでも、伝える内容や量は変わると思います。

UK Coachingでは、競技者が上達するにつれてフィードバックの頻度を減らし、本人が自分で考え修正する機会を増やしていく考え方も紹介されています。

何かを言うことだけが、指導ではありません。

ときには言わずに待つことにも意味があります。

相手が受け取れる形で返す

内容が正しくても、相手に届かなければ十分なフィードバックとして機能しないことがあります。

ここでいう「受け取れる形」とは、相手が不快にならないよう優しく言うという意味ではありません。

何を、いつ、どのくらい、どのように伝えるか。

そこまで含めて考えるということです。

内容が妥当でも、相手に届かないことがある

例えば、大切なレースで思うような結果が出なかった直後。

本人が明らかに落ち込んでいるところへ、

「スタートが遅かったし、後半も力んでいたよ」

と伝える。

技術的には妥当な指摘かもしれません。
でも、その瞬間に本人が受け取れるとは限りません。

少し時間を置いた方がいいかもしれない。
逆に、その場で確認した方が感覚を思い出しやすい場合もあります。

つまり、フィードバックには内容だけでなくタイミングがあります。

事実と解釈を少し分けてみる

言葉の選び方では、事実と解釈を分けて考えることも役立ちます。

例えば、

「今日は集中していない」

という言葉には、指導者の解釈が入っています。

一方、

「今日は説明中に周りを見る場面が、いつもより多かったように見えたよ」

なら、観察した行動に近づきます。

そのうえで、

「自分では今日はどう?」

と聞けば、対話が始まります。

「集中していない」と決めつけてしまえば見えなかった背景が、本人の言葉から分かることもあります。

指導者に見えているものが、そのまま唯一の真実とは限りません。

フィードバックは、対話の入口にもなる

私自身、以前は競技者の動きを見るとすぐにフィードバックを返していました。

「ここをこうしてみよう」
「いまはこうなっている」

できなければ、また説明する。

競技者のために伝えているつもりでしたが、それを続けていると、

「どうすればいいですか?」

と答えを求められることが増える場面がありました。

そこで、

自分が答えを出し続けることで、競技者自身が考える時間を奪っているのではないか

と感じるようになりました。

答えを渡す前に、本人にはどう見えているか聞く

一本走ったあと、

「いまの一本、自分ではどうだった?」

と聞いてみる。

競技者が、

「最初の3歩は良かったけれど、そのあと身体が起きた感じがしました」

と話したら、

「私からも同じように見えたよ」

と返すことができます。

反対に、本人には違う感覚があったのなら、指導者から見えた情報と並べて考えられます。

指導者が正解を渡すのではなく、本人の感覚と外から見えた情報を重ねて考える。

フィードバックは、一方向に言葉を投げるだけでなく、対話の入口にもなります。

JSPOが示すプレーヤーズセンタードのコーチングでも、指導者が一つの関わり方に固定せず、競技者の状況に応じて指示・提案・質問・委譲を使い分ける考え方が示されています。

参考:日本スポーツ協会:プレーヤーの成長をサポートしながら共にスポーツを楽しむことができる存在。いま「公認スポーツ指導者」が求められるわけとは

フィードバックを、次の一歩につなげる

フィードバックを伝え、競技者も理解した。

そこで終わりではありません。

大切なのは、その次です。

例えば、

「最初の3歩で身体が起きるのが早いように見える」

と伝えたなら、

「次の一本では、3歩目までの感覚を確認してみよう」

と次に試すことへつなげる。

そして変化したら、

「いまの方が、さっきより3歩目まで角度を保てていたように見えたよ」

とまた返す。

現在地を知る。試す。もう一度確認する。

この循環ができれば、フィードバックは単なる指摘ではなく、競技者が学ぶための材料になります。

フィードバックをする前に考えたい3つの問い

難しい理論を毎回思い出す必要はありません。

競技者に言葉をかける前に、3つだけ考えてみます。

① いま、この人に何を伝える必要がある?

見えたことを全部言うのではなく、いま必要な情報を選ぶ。

場合によっては、何も言わないという選択もあります。

② どう伝えれば、この人は受け取れる?

すぐ伝えるのか、少し待つのか。

指摘するのか、質問するのか。

言葉で伝えるのか、映像を使うのか。

相手に合わせて届け方を考えます。

③ この言葉は、次の何につながる?

言って終わりではなく、その言葉を受けた競技者が次に何を考え、何を試せるのかまで想像してみます。

3つに共通しているのは、「自分が何を言いたいか」ではなく、「相手に何が必要か」から考えることです。

フィードバックは、相手の成長のためにある

フィードバックは、指導者が知識を示すためのものではありません。

自分の理想通りに競技者を動かすためでもない。

だからといって、相手の機嫌を取るために良いことだけを伝えるものでもありません。

耳の痛いことを伝える必要があるときもありますし、明確に指示した方がいい場面もあれば、あえて待つ方がいいこともあるでしょう。

どの方法が正しいかは、競技者や状況によって変わります。

だからこそ指導者は、

「いま、この競技者の成長のために、自分には何ができるだろう」

と考え続ける。

フィードバックも、そのために使える一つの手段です。

指導者が競技者を直接「成長させる」ことはできないのかもしれません。

でも、自分では気づきにくい現在地を返すことはできる。
違う見方を渡すことも、考えるきっかけをつくることもできます。

だから、フィードバックをするときには、自分自身にも問いかけてみたいと思います。

そのフィードバックは、相手の次の一歩につながっていますか?

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この記事を書いた人

WILLINQ JOURNAL編集部。

スポーツ指導、競技経験、人材育成の実務経験をもとに、スポーツとの向き合い方、Will、目的と手段、学びについて発信しています。

答えを急ぐのではなく、問い、迷い、経験し、振り返る。
その過程で、自分なりのWillを育てていくためのきっかけを届けます。

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