順大陸上部の入部基準から考える。組織に「所属する」とはどういうことか?

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約400人が所属する陸上競技部が、入部基準を設けた

2026年9月1日、順天堂大学陸上競技部が、2027年度入学者から一部のブロックに入部基準を設けることを発表しました。

対象となるのは、男女短距離・障害、男女跳躍・混成、男子長距離(駅伝)の各ブロックです。
例えば、男子100mは10秒75、男子5000mは14分45秒00など、種目ごとに基準記録が示されています。
基準記録を突破した競技者は、入学後に指導者や学生役職者との面談を行い、入部の意思や活動方針、部員としての責務などを相互に確認したうえで入部することになります。

今回、入部基準を設けた理由として挙げられているのが、部員数の増加です。

陸上競技部には現在、約400人が所属しており、入部希望者が増える中で、練習環境や一人ひとりへの指導が十分に行き届かず、安全面や教育面を維持することが難しくなったと説明されています。

参考:順天堂大学陸上競技部「2027年度順天堂大学陸上競技部入部に関するお知らせ」

この発表を見れば、

順大陸上部も、競技力の高い人しか入れなくなったのか。

と感じる人もいるかもしれません。

しかし、発表を読み進めると、基準記録以上に気になる言葉があります。

どんな学生を歓迎するのか?

順天堂大学陸上競技部は今回の発表で、競技力の向上を目指すだけでなく、部の活動や運営にも主体的に取り組み、仲間とともに部の発展に貢献する意欲のある学生を歓迎するとしています。

さらに、基準記録を突破していなくても、競技記録に加えて、将来的に陸上競技部の運営を担う意思や適性などを総合的に考慮して、入部を認める場合があるとされています。
その場合には、原則として3年次以降に主務、副務、庶務、競技会係など、部の運営に関わる役割を担うことまで明記されています。

つまり、今回定められたのは、「どのくらい競技力が高ければ入れるのか」という基準だけではありません。

その奥には、

順天堂大学陸上競技部は、どのような人を「部員」と考えるのか。

という問いがあるように思います。

今回の入部基準の本質は、「誰を排除するか」ではなく、「誰を部員と呼ぶのか」を定義することではないかと考え、この点に注目したいと思います。

所属することは、「受け取ること」だけなのか?

大学の陸上競技部に所属すれば、さまざまなものを得ることができます。

競技場やトレーニング施設を使える。
専門的な指導を受けられる。
高い競技力を持つ仲間と練習できる。
歴史の中でつくられてきた組織風土・運営環境の中で活動できる。

順天堂大学の現在のクラブ紹介では、関東インカレ、日本インカレ、箱根駅伝での総合優勝を「最大の目標」としています。

ただ、その先にある方向性も見ておきたいところです。

順天堂大学陸上競技部は、過去の公式発信で「究極の目標」として、オリンピックをはじめとする世界大会に日本代表選手を一人でも多く輩出することを掲げています。また、翌年度の活動報告でも「日本の頂点に立ち、世界と戦う」ことや、国際大会で活躍するトップアスリートの育成が示されています。

現在のクラブ紹介にあるインカレや箱根駅伝での優勝をチームとしての目標とするなら、その先には、世界で戦うアスリートを育て、輩出していくという、より大きな目指す方向があると捉えることができます。

実際、2025年の世界陸上にも順天堂大学出身者が複数出場しており、大学自身も今後、国際大会で活躍できる選手の育成・強化に取り組む方針を示しています。

参考:順天堂大学「2022年度活動報告 / 2023年度の抱負」
参考:順天堂大学「2023年度活動報告 / 2024年度の抱負」
参考:世界陸上が閉幕。本学出身者5名が世界に挑みました!

そうした組織の中で競技したいと思う学生が多いことは自然です。

ただし、組織に所属することは、環境を享受したりや支援を受け取ることだけではないと思います。

約400人の部員が活動するためには、競技すること以外にも多くの仕事があります。
部の運営をする人、役職を担う人、競技会を運営する人、審判をする人、補助員を務める人、仲間や後輩を支える人がいるからこそ、それぞれの競技活動も成り立っています。

そう考えると、部員とは、

陸上競技部で競技する人であると同時に、陸上競技部をつくる人でもある。

と言えるのではないでしょうか。

組織から何を受け取り、自分は何を返すのか

組織論には、心理的契約(Psychological Contract)という考え方があります。

心理的契約は主に雇用関係の文脈で研究されてきた概念ですが、「組織から何を期待し、自分には何が期待されていると考えるか」を考える手がかりになります。

Denise Rousseauは、心理的契約を、個人と組織の間にある相互的な義務についての個人の認識として整理しています。

簡単に言えば、

組織は自分に何を提供してくれると思っているのか。
自分には、組織から何を期待されていると考えているのか。

という関係です。

参考:Denise M. Rousseau「Psychological and implied contracts in organizations」

陸上競技部に置き換えれば、部からは指導や練習環境、仲間、競技活動を支える仕組みを受け取ります。

一方、部員側にも、競技に真剣に取り組むことだけでなく、ルールを守り、運営に参加し、自分の役割を担い、組織の活動を支えるという側面があります。

今回の発表にある、

「部の活動方針や部員としての責務等を相互に確認したうえで」

という表現は、この関係を考えるうえで象徴的です。

所属とは、何かを受け取るだけではなく、何かを担うことでもある。

ここを共有できなければ、個人が組織に期待することと、組織が部員に期待することが少しずつすれ違っていきます。

組織が大きくなるほど、役割をどう設計するかが重要になる

組織における役割や貢献を考えるうえで、参考になる研究の一つにSocial Loafing(社会的手抜き)があります。

KarauとWilliamsによる78研究のメタ分析では、集団で一つの活動に取り組むとき、個人で取り組む場合に比べて、一人ひとりの努力が低下することがあります。
参考:Karau & Williams「Social loafing: A meta-analytic review and theoretical integration」

もちろん、人数が多いからといって、必ずSocial Loafingが起きるわけではありません。
また、順天堂大学陸上競技部でこの現象が起きていると示すものでもありません。

むしろ考えたいのは、組織の規模が大きくなったとき、一人ひとりの役割や、自分の貢献が何につながっているのかを、どう見えやすくするかということです。

今回、陸上競技部自身が約400人という規模の中で、安全面や教育面を維持することが難しくなったと説明していることからも、人数の増加を単純に「部が大きくなった」とだけ捉えられない段階に来ていることがうかがえます。

入部基準と、組織づくりは別の課題

今回の入部基準では、競技記録だけで部員を決めるわけではありません。

基準記録に届いていない場合でも、競技力に加えて、将来的に部の運営を担う意思や適性などを総合的に考慮し、入部を認める場合があるとされています。

ここから分かるのは、順天堂大学陸上競技部が、競技力だけを部員の条件として考えているわけではないということです。

競技力を高めることと、組織の一員として役割を担うことは、同じではありません。
高い競技力を持っているからといって、その人がどのように組織へ関わるかまで決まるわけではありません。
逆に、競技のパフォーマンスだけでは表れない形で、運営を担い、仲間を支え、組織の活動に貢献できる人もいるでしょう。

だからこそ、ここでは二つの課題を分けて考える必要があります。

一つは、

誰を部員として迎えるのか。

もう一つは、

迎えた部員と、どのような組織をつくっていくのか。

です。

入部基準を設けることで、受け入れる人数や条件を整えることはできます。

しかし、それだけで、部員一人ひとりが組織の目的や自分の役割を理解し、主体的に組織へ関わるようになるわけではありません。

入部前に活動方針や責務を伝える。
部員になったあとも、それぞれの役割を明確にする。
なぜその役割が必要なのかを共有する。
そして、組織が目指すものと、一人ひとりの日々の行動をつなげていく。

そうした働きかけは、入部基準とは別に必要です。

「誰を入れるか」を考えることと、「入った人と、どのような組織をつくるか」を考えることは、別の課題です。

「誰でも入れること」は、本当に教育的なのか

大学の部活動に入部基準を設けることについて、

学生なのだから、希望すれば誰でも入れるようにするべきではないか。

という考え方もあるでしょう。

しかし、

陸上競技を続ける機会があること

と、

特定の陸上競技部に無条件で所属できること

は分けて考える必要があります。

順天堂大学スポーツ健康科学部には、陸上競技部とは別に陸上競技同好会もあります。
陸上競技部に所属できないことが、そのまま陸上競技を続けられないことを意味するわけではありません。

大学で競技について学ぶことも、自分でトレーニングを続けることも、同好会で活動することもできます。
陸上競技を探究する方法は一つではありません。

一方で、日本の頂点に立ち、その先で世界と戦う選手を育てることを目指す競技組織が、

自分たちはどのような組織でありたいのか。
どのような人と一緒に活動したいのか。

を考えることも必要です。

誰でも入れることと、教育的であることは、必ずしも同じではありません。

人は組織を選ぶが、組織も人を選ぶ

今回の発表は、順天堂大学陸上競技部が入部希望者を選ぶ話として受け取られやすいものです。
ただ、選ぶのは組織だけではありません。

高校生側も、その組織に所属するかどうかを選んでいます。
順大で陸上をしたい。
有名な指導者に教わりたい。
強い競技者と練習したい。

それも大切です。

ただ、もう一歩踏み込めば、

この部は何を目指しているのか。
自分が目指したいものと合っているか。
どんな役割や責任を求められるのか。
それを自分は引き受けたいと思えるか。

まで考えることができます。

組織行動論には、個人と組織の適合を考えるPerson-Organization Fitという概念があります。
スポーツクラブを直接対象とした研究ではありませんが、価値観や目標など、個人と組織の間にどのような適合があるのかを考える視点です。

参考:Kristof「Person-Organization Fit: An Integrative Review of Its Conceptualizations, Measurement, and Implications」

「自分が入りたいか」だけではなく、自分と、その組織が目指すものは合っているか。

大学進学で競技環境を選ぶのであれば、そこまで考えてもよいのではないでしょうか。

「活動方針と責務」は入学前に知りたい

その意味で、今回の発表について、今後さらに明確になるとよいと思う点もあります。
入部基準の告知では、面談で「部の活動方針や部員としての責務等を相互に確認する」とされています。
しかし、今回の告知だけでは、その活動方針や責務の具体的な内容までは分かりません。

入部を希望する高校生にとって必要なのは、

100mなら10秒75を突破していればいいのか。

という情報だけではないはずです。

部員としてどのような活動や役割を求められるのか。
入学後に基準記録を突破した場合は入部できるのか。
2年次以降からの入部は可能なのか。
同好会とはどのような違いがあるのか。

こうした情報も、進路を選ぶうえでは重要です。

今回のお知らせでは、問い合わせ先としてスポーツ健康科学部の入学試験係が示されています。

入部条件が単なる部内ルールではなく、大学への進学を考える段階から関係する情報になったことを象徴しているようにも見えます。

だからこそ、

どんな人に来てほしいのか。

と同時に、

入った人に何を求めるのか。

まで、入学前にできるだけ分かる状態になっていることが望ましいと思います。

所属するとは、何を受け取り、何を担うことか

今回の発表を、「順大陸上部に入部基準ができた」というニュースとして見ることもできます。
しかし、その奥には、もっと広い問いがあります。

組織が大きくなり、指導や安全、教育を維持することが難しくなった。
そのとき組織は、「誰でも入れる状態」を続けるのではなく、誰を部員とし、部員に何を求めるのかを改めて考えることになりました。

これは、大学の陸上競技部に限った話ではありません。

部活動でも、クラブチームでも、会社でも、NPOでも、人は組織から環境や知識、仲間、機会といったものを受け取ります。
一方で、所属する以上は、役割を果たし、ルールを守り、周囲を支えながら、その組織が目指すものに何らかの形で貢献することも求められます。

所属するとは、ただ「そこにいる」ことでも、その環境を利用することでもなく、その組織の一員になることです。

だから組織側は、どんな人と何を目指したいのかを考える。

そして所属する側も、その組織で何を目指したいのか、そこから何を受け取り、自分は何を担うのかを考える。

今回の入部基準の本質は、「誰を排除するか」ではなく、「誰を部員と呼ぶのか」を定義することなのかもしれません。

その組織で、何を目指し、何を担いますか?

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この記事を書いた人

WILLINQ JOURNAL編集部。

スポーツ指導、競技経験、人材育成の実務経験をもとに、スポーツとの向き合い方、Will、目的と手段、学びについて発信しています。

答えを急ぐのではなく、問い、迷い、経験し、振り返る。
その過程で、自分なりのWillを育てていくためのきっかけを届けます。

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