「目標を書いてください」と言われたら
競技をしていると、目標を書く機会があります。
大会前やシーズンの始まり、練習日誌を書くとき。
そんなとき、
「100mで10秒台を出す」
「県大会で3位以内に入る」
といった数字のある目標は、比較的書きやすいかもしれません。
では、
どんな走りをしたい?
と聞かれたらどうでしょうか。
「最後まで頑張る」
「自分らしい走りをする」
「全力を出す」
そんな言葉が出てくることもあります。
こうした思いが悪いわけではありません。
ただ、目標として考えるなら、一つ問いが残ります。
どうなれば、その目標を達成したと分かるのでしょうか。
目標は、数字でなければいけないのでしょうか。
目標を表す方法は、数字だけではない
目標を具体化するとき、数字で表す方法があります。
例えば、
今シーズン中に100mで10秒台を出す。
タイムがあるため、達成できたかどうかを明確に確認できます。
一方、
レース後半でも、練習で取り組んできたリズムを保って走る。
という目標も考えられます。
こちらには明確な数字がありません。
それでも、レース映像や自分の感覚、コーチからのフィードバックなど、複数の情報を手がかりに狙った状態に近づけたかを振り返ることはできます。
つまり、目標は数字で表すこともできれば、目指す状態や行動を言葉で表すこともできるということです。
どちらが優れている、という話ではありません。
大切なのは、「数字にできるか」より、「振り返れるか」です。
つまり、目標を立てるときに、「どうなれば達成した、あるいは前進したと判断するのか」まで考えておくということです。
「結果・パフォーマンス・プロセス」とは別の切り口
以前の記事「目標は、高ければ高いほどいいのか?」では、スポーツの目標を次の3つの視点から整理しました。
結果目標|Outcome Goal
県大会で優勝する。
順位や勝敗など、他者との関係を含む結果を目指す目標です。
パフォーマンス目標|Performance Goal
100mで10秒台を出す。
他者ではなく、自分自身のパフォーマンスを基準にします。
プロセス目標|Process Goal
60m以降も、練習で取り組んできたリズムを保って走る。
結果に至るまでの、自分の動きや行動に焦点を当てます。
この3つは、「何に焦点を当てた目標なのか」という切り口です。
AASPの目標設定資料でも、Outcome / Performance / Process Goalを組み合わせて目標を設計する考え方が扱われています。
一方、今回考えているのは、その目標を、どのように表現し、どう確認するのかという別の切り口です。
そのため、結果目標だから数字、プロセス目標だから言葉、と決まっているわけではありません。
例えば、「週2回、補強トレーニングを行う」は、数字を含んでいますがプロセス目標です。
重要なのは分類することではなく、自分が何を目指しているのかを具体的にすることです。
「頑張る」は、目標なのか
例えば、
最後まで頑張る。
という目標はどうでしょうか。
意気込みとしては自然です。
ただ、振り返ろうとすると、
何をもって「頑張れた」と判断するのか。
が分かりにくくなります。
そこで、
最後まで頑張る。
を、
後半で苦しくなっても、練習で取り組んできた腕振りのリズムを意識して走る。
とすると、目指す状態が具体的になります。
数字はありません。
それでも、
できたか。
どこまではできたか。
どこで崩れたか。
を振り返ることができます。
「一生懸命やる」「全力を出す」も同じです。
問題なのは、数字がないことではありません。
自分が何を目指しているのか分からないほど曖昧なことです。
具体的にすることと、数字にすることは同じではありません。
数字と状態は、組み合わせてもいい
むしろ、数字と目指す状態の両方を持つことで、競技を違う角度から振り返ることができます。
例えば、
今シーズン中に100mで10秒台を出す。
60m以降も、練習で取り組んできたリズムを保って走る。
という二つの目標を持ったとします。
大会で11秒00だった。
タイムだけを見れば、10秒台という目標には届いていません。
でも映像を見ると、後半の走りは以前より改善していた。
その場合、
目標タイムには届かなかった。
でも、目指していた走りには近づいた。
と振り返ることができます。
反対に10秒台が出ても、
タイムは達成したけれど、狙っていた走りとは違った。
ということもあるでしょう。
数字は、結果や進み具合を明確に確認しやすくしてくれます。
一方、目指す状態を言葉にしておくと、数字だけでは見えない変化にも気づけます。
どちらも、自分が目的へ近づいているかを知るための情報です。
SMARTは、目標を点検する補助線
目標設定では、「SMART」という考え方もよく使われます。
SMARTには複数の表現がありますが、一般的な一例としては以下の通りです。
- Specific|具体的か
- Measurable|確認できるか
- Achievable|実現可能性を考えているか
- Relevant|目的とつながっているか
- Time-bound|期限があるか
ただし、SMARTの項目を満たせば、自動的に良い目標になるわけではありません。
2026年にExercise and Sports Science Australiaから公表された専門家声明でも、運動・身体活動における目標設定について、SMARTへの過度な依存や理論の単純化が課題として指摘されています。
SMARTは「正しい目標をつくる公式」というより、自分が立てた目標を点検するための補助線として使うくらいがよいと思います。
目標を立てるときに考えたい4つの問い
目標を書くとき、難しく考える必要はありません。
次の4つを問いかけてみます。
① 何を目指す?
② どうなれば、達成した・前進したと分かる?
③ いつまでに目指す?
④ それは、何のため?
特に今回考えたいのは、二つ目です。
達成や前進を振り返るときは、「何をもって前進とするのか」という基準と、
「何を見て確かめるのか」という方法を考えておくと分かりやすくなります。
タイムや順位を基準にすることもできる。
目指す動きや行動を言葉にすることもできる。
そして、それを映像や自分の感覚、コーチからのフィードバックを通して確かめることもできます。
大切なのは、目標を立てたあとに、
結局、できたのかどうか分からない。
とならないことです。
「数字にできるか」より、「振り返れるか」
数字には大きな強みがあります。
明確で、比較しやすく、進み具合も確認しやすいため、スポーツの目標設定では、積極的に使えばいいと思います。
でも、すべての目標を数字にする必要はありません。
「数字にできるか」より、「振り返れるか」。
曖昧な意気込みで終わらせず、あとから振り返れるところまで言葉を具体化する。
数字でも、言葉でもいい。
重要なのは、自分が何を目指し、どうなれば前進したと分かるのかまでを考えられていることです。
「数字にできるか」より、「振り返れるか」。
その目標は、達成したか、前進したかをどう確かめますか?