高校を選ぶとき、何を基準にするでしょうか?
学力、校風、通学時間、授業内容、進路実績、学費。
大学進学を考えるのか、就職を考えるのかによっても選び方は変わります。
では、スポーツに本気で取り組んでいる中学生ならどうでしょうか?
「強い部活に入りたい」
「あの先生に教わりたい」
「インターハイを目指せる環境に行きたい」
「良い設備で練習したい」
スポーツが高校を選ぶ大きな理由になることもあります。
それ自体は、まったく悪いことではありません。
自分が高校生活で何を大切にしたいのかが明確なら、スポーツを軸に進路を考えるのも一つの選択です。
ただ、一つ考えておきたいことがあります。
いま、その高校を魅力的に見せている環境は、3年間ずっとそこにあるのか?
高校を選ぶときは「いま一番魅力的な環境」だけでなく、何かが変わっても納得して通える環境かまで考えてみる。
今回は、スポーツを軸に高校を選ぶときの考え方について、私自身の経験も交えながら考えます。
「いまの環境」は、3年間続くとは限らない
高校の部活動を見に行くと、さまざまな魅力が目に入ります。
有名な指導者がいる。全国大会に出場している先輩がいる。チームの雰囲気がいい。練習環境が整っている。
ただ、その中には3年間で変わり得るものがあります。
顧問やコーチは異動することがあります。
先輩は卒業し、部員も入れ替わります。
チームの競技力や雰囲気、練習方針が変わることもあります。
そして、自分自身の目標も変わるかもしれません。
一方で変わらないもの、比較的変わりにくいものもあります。
学校の場所、通学時間、学科、教育課程、施設、卒業後の進路などです。
この「変わりやすいもの」と「変わらないもの/変わりにくいもの」を分けて考えることは、高校選びでは意外と重要だと考えています。
入学したとき、憧れの先生はもういなかった
私が中学生だった頃、一つ上にハードルを専門とする先輩がいました。
県内では高い競技力を持つ選手で、私も一緒にリレーを走りました。
その先輩は、高校進学にあたって、県内で実績のある指導者から教わることを大きな理由の一つとして、片道約1時間かかる高校を選びました。
ところが、入学するタイミングでその先生が別の高校へ異動してしまったのです。
先輩は1年時にはインターハイへ出場し、順風満帆なスタートを切ったかのように見えました。
一方、その後は思うように自己ベストを更新できず、指導者との関係に悩む時期もあったと聞いています。
もちろん、その後の競技生活が思うようにいかなかった理由を、顧問の異動だけで説明することはできません。
ただ、後になって先輩が話していた言葉が印象に残っています。
「本当は、あの先生に教えてもらいたかった」
進学を決めた大きな理由の一つが、入学する時点ですでになくなっていた。
高校を選ぶときに、考えておく価値のある出来事だと思います。
私も、その先生に教わりたいと思っていた
実は、私も同じ先生に教わりたいと思っていました。
中学2年の頃には、その先生が県内の高校で陸上部を指導していることを知っていて、進学先として意識していました。
ところが、中学3年になった頃、その先生は別の高校へ異動しました。
それが、家から比較的近い専門高校でした。
正直、少し迷いました。
私は大学進学も考えていたので、当時の自分にとって、「専門高校へ行く」という選択には、どこか引っかかるものがありました。
一方で、競技のことを考えればとても魅力的でした。
教わりたい先生がいる。
一緒に走ってきた中学校の同級生もその高校へ行くというので、リレーでもかなり戦えそう。
でも、その先に大学進学までつながっているのか。
中学生なりに、そんなことを考えていました。
そんなとき、その先生から言われた言葉があります。
「成績をしっかり取っていれば、進学は心配するな。」
細かな言い回しはもう覚えていません。
ただ、「大学へ行きたい」という私の不安を、先生が受け止めてくれたことは覚えています。
先生は、私に来てほしいという意思もはっきり示してくれました。
一緒に競技してきた同級生も行く。家からも通いやすい。
そして何より、この先生のもとで走ってみたい。
いくつかの理由が重なって、私はその専門高校を選びました。
当時の私は、進路選択の条件を整理して意思決定していたわけではありません。もっと感覚的でした。
でも、いま振り返ると分かります。
私がその高校を選んだ理由は、先生一人だけではありませんでした。
先生への信頼があり、仲間がいて、通う現実性があり、その先の進学についても見通しを持てた。
だから私は、
先生で高校を選んではいけない。
とは思いません。
人との出会いが、進路を決めることはあります。
ただし、
先生で選んでもいい。しかし、先生だけで選ばない。
そこは分けて考えていいと思います。
魅力は変わるが、コストは変わらない
先ほどの先輩の話で、もう一つ考えたいことがあります。
それは、通学時間です。
先輩は、希望する指導者から教わるために片道約1時間の高校へ通うことを選びました。
しかし、その先生が異動しても、
片道1時間という通学時間は残ります。
ここには、高校選びの難しさがあります。
魅力は変わることがある。しかし、その魅力を得るために引き受けたコストは残ることがある。
片道1時間なら、往復で2時間です。
その時間は毎日積み重なります。
睡眠、食事、勉強、身体のケア、自主練習、自由時間。通学に使う時間は、どこかの時間と競合します。
だから、通学のしやすさと部活動の環境は、切り離して考えない方がいいと思います。
競技場がある、ウエイトトレーニング設備がある、専門の指導者がいる。
それだけが「良い練習環境」ではありません。
通学時間も、競技環境の一部です。
高校生活は、数日間の合宿ではありません。
3年間、日常として続きます。
だからこそ、「最高の環境か」だけではなく、その環境を3年間使い続けられるかまで考える必要があります。
もし、部活動ができなくなったら?
高校を選ぶとき、一度だけ極端に考えてみるのも有効です。
もし入学後、その部活動ができなくなったとしても、その高校に通いたいか。
怪我をするかもしれません。
競技への気持ちが変わるかもしれません。
部の環境そのものが変わる可能性もあります。
もちろん、「陸上ができないなら、その高校へ行く意味はない」という答えでも構いません。
それが分かれば、自分にとって高校選びにおけるスポーツの優先順位が、それほど高いということです。
この問いの目的は、「部活動以外の条件も必ず重視しましょう」と正解を決めることではありません。
スポーツという大きな条件を一度取り除くことで、
自分は、この学校の何に魅力を感じているのか。
を確かめるためです。
学びたいことがある。校風が好き。将来進みたい大学への進路がある。通いやすい。そこで高校生活を送りたいと思える。
反対に、それらを考えたうえでも「やはりこの学校の部活動で競技したい」が残るなら、それも立派な進学理由です。
極端な問いは、極端な答えを出すためではない。自分が何を大切にしているのかを知るために使う。
高校を選ぶとき、自分の優先順位を知っておくことは、環境が変わったときにも役立ちます。
その先生がいなくなっても、そこに行きたいか
では、スポーツを軸に高校を選ぶとき、何を見ればよいのでしょうか。
私は、「強い学校か」という一つの尺度ではなく、人、部、学校をそれぞれ見ることが大切だと思います。
まず、人を見る。
顧問やコーチの実績や有名さだけではなく、どんな競技者を育てたいと思っているのか。
どこまで細かく指導するのか。競技者自身にどのくらい考えさせるのか。自分とその指導方針は合いそうか。
優秀な指導者であっても、その指導方法が自分に合うとは限りません。
次に、部を見る。
全国大会出場者が何人いるかだけではなく、
可能であれば、「誰が強いか」だけでなく、「その競技者がどう伸びてきたか」も見る。
を見る。
全国大会に出ている競技者が、中学時代から全国トップだったのか。
それとも高校に入ってから大きく伸びたのか。
自分と同じくらいの競技レベルで入学した先輩が、3年間でどう変わったのか。
そうした情報を見ると、単なる大会実績とは違うものが見えてきます。
そして、学校そのものを見る。
通学時間、学科、授業、進路、施設。
これらは、部活動の結果とは関係なく、毎日の高校生活に関わります。
SNSだけで、その部活を選ばない
できれば、体験入学や体験入部、練習会には実際に足を運んでほしいと思います。
学校や部活動のInstagramを見ることも、情報収集としては有効です。
ただ、SNSに載るのは多くの場合、大会で活躍した瞬間や、楽しそうな集合写真、充実した練習風景です。
それが嘘だという話ではありません。
ただ、
切り取られた最高の一瞬と、毎日の部活動は同じではない。
ということです。
実際に練習へ行けば、SNSには写りにくいものが見えます。
顧問が部員へどう声をかけているのか。
部員同士がどう関わっているのか。
練習前後をどう過ごしているのか。
競技力の高い選手以外にも、指導者は関わっているのか。
部員自身が考えて動いているのか。
可能であれば、現役部員にも話を聞いてみるといいでしょう。
「練習はきついですか?」
だけではなく、
「入部してみて、想像と違ったことはありますか?」
「高校に入って一番伸びた人は、どんな選手ですか?」
と聞いてみる。
進学前だからこそ、誰かが編集した情報だけでなく、自分で一次情報を取りにいくことには価値があります。
「いま一番いい」だけで選ばない
高校に入ってからの3年間を、すべて予測することはできません。
顧問が異動するかもしれない。
先輩が卒業し、チームの雰囲気が変わるかもしれない。
思うように記録が伸びないかもしれない。
自分自身の目標が変わることもあります。
「どこが一番いい環境か」という答えだけを探すのではなく、
自分は、何を大切にして高校を選ぶのか。
を考えておく。
強い部で競技したい。
この先生に教わりたい。
大学進学も大切にしたい。
家から通いやすい方がいい。
自分で考えて練習できる環境がいい。
どれが正解ということではありません。
自分にとって大切な条件を知り、それを一つだけに預けない。
高校を選ぶときは、
「いま一番魅力的な環境」だけでなく、「何かが変わっても納得して通える環境か」を考える。
先生で選んでもいい。ただ、先生だけで選ばない。
その先生がいなくなっても、そこに行きたいですか?