振り返るとは、出来事を思い出すことですか?
試合が終わったあと、練習日誌やノートに振り返りを書く。
スポーツをしていると、そんな機会があると思います。
私も高校生のころ、レースの結果を振り返ることがありました。
ただ、当時は「何を振り返ればいいのか」がよく分かっていませんでした。
書いていたのはタイムや順位と、
「スタートは良かった」
「200m~300mの区間がいつもより走れなかった」
「決勝では、前半を想定していたタイムで通過できた」
といった、そのレースに対する感想が中心だったと思います。
もちろん、こうした記録にも意味はあります。
でもいま振り返ると、もっと見ることがあったはずです。
例えば試合当日だけではなく、そこまでにどんな準備をしてきたのか、トレーニングはどうだったのか、睡眠や食事などの日常生活はどうだったのか。
そして試合では何が起きたのか。
その結果を受けて、これから何に取り組むのか。
準備 → 試合 → これから
という時間軸だけでも、振り返れることは増えていきます。
さらに「準備」をトレーニングと日常生活に分けるなど、見る観点を細かくすることもできます。
当時の私は、振り返りを書いてはいました。
でも、経験から何を学び、次に何をするのかまで十分に考えられていたかというと、そうではありませんでした。
では、そもそも「振り返る」とは何をすることなのでしょうか。
経験と学びの間に、「振り返り」がある
以前の記事「経験しただけでは、学びにはならない。」では、経験したという事実だけで自動的に学びが生まれるわけではないと書きました。
同じ試合に出ても、同じ練習をしても、そこから得るものは人によって違います。
では、経験を学びに変えるためには何が必要なのでしょうか。
その一つが振り返りです。
本稿では振り返りを、
経験を捉え直し、そこから気づきや学びを得て、次の選択につなげていくプロセス
として考えてみます。
スポーツにおける自己調整学習の研究でも、練習後の「評価・振り返り」は、自分の強みや弱み、改善点を評価し、今後の学習に使える気づきを得るプロセスとして扱われています。
つまり振り返りは、過去を見るためだけのものではありません。
次へ進むために、過去をもう一度見る。
そこに振り返る意味があるのだと思います。
記録・感想・振り返りは、少し違う
振り返りを考えるうえで、まず「記録」「感想」「振り返り」を少し分けてみます。
厳密に言葉を分類することが目的ではありません。
自分がいまどこまで考えられているのかを確認するための整理です。
記録は「何が起きたか」を残す
例えば、
100m 11秒35(+0.8m/s)
予選3着
これは記録です。
練習であれば、メニュー、タイム、レスト、重量なども含まれます。
こうした情報は後から自分の状態を確認するための大切な材料になります。
感想は「自分がどう感じたか」
そこに、
思ったより走れなかった。
身体が重かった。
悔しかった。
と書けば、自分の感覚や感情が加わります。
これも重要です。
ただ、
「今日は全然ダメだった」
という言葉は、起きた事実そのものではありません。
「ダメだった」と自分が評価したという解釈でもあります。
ここを少し分けて考えるだけでも、振り返りは変わります。
振り返りは「そこから何が分かったか」を考える
例えば、
タイムが悪かった。自分では後半が原因だと思った。
という感想があったとします。
そこで映像や区間タイムを見てみる。
すると、実際には後半よりもスタートから30mまでで大きく差がついていた。
すると、
「自分では後半が悪いと思っていたけれど、実際には加速局面に改善余地があるのかもしれない」
と見方が変わります。
ここまで来ると、単に出来事を書き残すだけではありません。
経験をもう一度見直すことで、自分の認識が変わっています。
これが、振り返りから生まれる学びの一つです。
振り返りは、「反省会」ではない
振り返るというと、
「何が悪かったのか」
「どこを直すべきか」
を探すイメージがあるかもしれません。
スポーツでは「反省」という言葉もよく使います。
もちろん、できなかったことを確認するのは大切です。
ただ、振り返りを「悪かったところ探し」だけにしてしまうのは少しもったいないと思います。
できなかったことだけを探さなくていい
負けた。
目標タイムに届かなかった。
練習を設定通りできなかった。
こうした経験は、自然と振り返りたくなります。
一方で、うまくいったときはどうでしょうか。
自己ベストが出た。
試合に勝った。
狙い通りのトレーニングができた。
そのとき、
「良かった。次も頑張ろう」
だけで終わってしまうこともあります。
うまくいったことこそ、振り返る
成功したときにも、
なぜ今日はうまくいったのか。
いつもと何が違ったのか。
何を続けた方がよさそうか。
と考えることができます。
うまくいった経験を振り返ることで、次にも生かせる手がかりが見つかることもあります。
UK Coachingが指導者向けに紹介するリフレクティブ・プラクティスでも、失敗だけでなく成功にも目を向け、経験から意味を見いだして今後の行動に生かすことが重要だとしています。
振り返りは、反省会ではありません。
良かったことも、悪かったことも含めて、自分の経験から何が分かるのかを考える時間です。
参考:UK Coaching「Understanding Your Coaching Practice Guide」
振り返るときに考えたい5つのこと
では、具体的に何を考えればよいのでしょうか。
振り返りに唯一の正しい方法があるわけではありませんが、WILLINQでは次の5つに分けて考えてみたいと思います。
① 何が起きた?|FACT
まずは事実を確認します。
何をしたのか。
どんな結果だったのか。
タイムはどうだったのか。
映像ではどんな動きをしていたのか。
ここでは、できるだけ「良い」「悪い」という評価を急がず、起きたことを見ます。
例えば、
「スタートがダメだった」
ではなく、
「「30m地点では、隣のレーンの競技者が約1m前にいた」
と見る。
事実が分かれば、その後の問いも具体的になります。
② 自分はどう捉えた?|INTERPRETATION
次に、自分がその経験をどう感じ、どう解釈したのかを見ます。
「今日は身体が動かなかった」
「緊張して失敗した」
「後半が弱かった」
こうした感覚は大切です。
ただし、自分がそう感じたことと、実際に起きたことが同じとは限りません。
だからこそ、
「なぜ自分はそう思ったのだろう?」
と一度立ち止まります。
事実と解釈を分けることで、自分の思い込みに気づくこともあります。
③ なぜそうなった?|INQUIRY
事実と自分の捉え方が見えてきたら、その背景を考えます。
なぜこの結果になったのだろう。
なぜいつもと違う動きになったのだろう。
なぜ自分はそう判断したのだろう。
ここで、すぐに一つの原因へ決めつける必要はありません。
「睡眠不足が影響したのかもしれない」
「アップの時間が短かったのかもしれない」
「試合になると最初から速く走ろうとしすぎるのかもしれない」
いくつか仮説を持つだけでもいいと思います。
そして必要なら映像を見たり、過去の日誌を読み返したり、指導者に意見を聞いたりする。
振り返りとは、自分一人の頭の中だけで答えを出すことでもありません。
④ 何に気づいた?|LEARNING
ここが振り返りの大切なところです。
例えば、
「スタートで失敗した」
という認識から、
「自分は試合になると前へ進もうとする意識が強くなり、普段より早く身体を起こす傾向があるのかもしれない」
と気づいた。
すると、自分の見え方が少し変わります。
以前の記事では、WILLINQにおける学びを、「経験や知識によって、物事の見え方・捉え方が変わること」と整理しました。
振り返りは、その変化を生み出すためのプロセスでもあります。
タイムや順位だけでは見えなかった、自分の癖、考え方、強み、弱みが見えてくる。
それが次の判断を変える材料になります。
⑤ 次にどうする?|NEXT ACTION
そして、振り返りを「気づいた」で終わらせない。
次に取り組む課題は何か。
さらに、
その課題に対して、次に何を試すのか。
まで考えます。
例えば、
課題
スタートから30mまでの加速局面を改善する次に試すこと
次回は10〜30mの加速走を行い、3歩目までの姿勢を映像で確認する
ここまで決まれば、経験が次の行動につながっています。
振り返ることの出口には、次の選択があります。
「次は頑張る」で終わらせない
企業向けの人材教育の仕事で営業を始めた当初、上司から繰り返し言われた言葉があります。
「ネクストアクションは決まっていますか?」
商談が終わった。
先方の反応も分かった。
問題も少し判明してきた。
でも、
「良い商談でした。お客様の反応も上々で、問題点も少しわかってきました。」
で終わってしまえば、仕事は前に進みません。
次に誰が、いつ、何をするのか。
そこまで決まって初めて、次の動きが生まれます。
スポーツの振り返りも似ていると思います。
「今日はダメだった。次は頑張る」
という言葉に問題があるわけではありません。
ただ、その先に、
では何が課題なのか。
その課題に対して何をするのか。
まで考えられると、振り返りはより具体的な行動へつながります。
以前の記事「問題と課題は、何が違うのか。」では、問題を整理して課題を設定し、その課題に合った手段を選ぶことについて書きました。
振り返りによって現在地や問題に気づき、次の課題を決める。
そして、その課題に取り組む。
振り返りとトレーニングは、そこでつながっています。
もちろん、毎回新しいことを始める必要はありません。
振り返った結果、
「いまのトレーニングを続けよう」
と決めることも立派なネクストアクションです。
大切なのは、何となく次へ進むのではなく、自分なりの理由を持って次を選ぶことだと思います。
出来事だけでなく、「自分自身」を振り返る
振り返りは、技術やトレーニングの分析だけにとどまりません。
もう少し深く考えると、自分自身の考え方や判断も振り返ることができます。
例えば、
「なぜ100mの後半で失速したのか」
を考えるのは、パフォーマンスについての振り返りです。
一方で、
なぜ自分は試合になると焦ってしまうのか。
なぜ失敗するとすぐに「自分には無理だ」と思うのか。
なぜこの目標を目指しているのか。
と問いを向けることもできます。
起きた出来事ではなく、
そのとき自分が何を考え、何を感じ、どう判断したのか。
そこまで振り返ると、自分自身への理解が深まっていきます。
本稿ではこうした自分の考え方や感情、判断まで問い直すことも含めて、広く「振り返り」と捉えています。
UK Coachingでも、リフレクティブ・プラクティスは行動だけでなく、思考、感情、価値観、信念などを振り返り、それらが自分の実践にどう影響しているかを理解するプロセスとして説明されています。
振り返る対象を広げていくと、最終的には「自分はどうしたいのか」という問いに戻ることもあります。
振り返りは単なるパフォーマンス改善の技術ではありません。
自分自身を知り、次の選択を自分で考えるための行為でもあります。
毎回、深く振り返らなくてもいい
ここまで書くと、「毎日の練習で5項目すべて書かなければならないのか?」と思うかもしれません。
その必要はありません。
振り返ること自体が目的になってしまえば、本末転倒です。
普通の練習なら、
「今日は身体が重かった。昨日は睡眠時間が短かったので、今日は早く寝よう」
くらいでも十分なことがあります。
一方で、
- 大切な試合が終わった
- 思わぬ失敗をした
- 自己ベストが出た
- 強い感情が残っている
- 同じ問題を繰り返している
といった経験では、少し時間をかけて振り返ってみる。
私が高校生のころのレースも、もし当時もう少し観点を持っていれば、
これまでの準備
→ 試合で起きたこと
→ これから何に取り組むか
という流れで考えることができたはずです。
さらに準備を、トレーニング/日常生活/心理面などに分ければ、別の気づきもあったかもしれません。
振り返りの深さは、経験に合わせて変えていい。
大切なのは、長く書くことではありません。
その経験について、自分なりに何かが見えること。
そして必要なら、それを次へつなげることです。
振り返るとは、経験を次の選択につなげること
試合に出る。
練習する。
失敗する。
うまくいく。
スポーツを続けていれば、たくさんの経験が積み重なっていきます。
ただ、経験の数がそのまま学びの数になるわけではありません。
何が起きたのか。
自分はそれをどう捉えたのか。
なぜそうなったのか。
そこから何に気づいたのか。
そして、次に何をするのか。
一度立ち止まって問い直すことで、経験は少しずつ自分のものになっていきます。
振り返りは、過去を採点するためでも、できなかった自分を責めるためでもありません。
経験から学び、次の選択を考えるために行うもの。
そう考えると、練習日誌や試合後のノートに書く内容も少し変わってくるかもしれません。
その振り返りは、次の一歩につながっていますか?
振り返ったあと、次に何をするか決まっていますか?