「分かった?」と聞いて、何が分かる?
指導をしていると、
分かった?
と聞くことがあります。
競技者は、
はい。
と答える。
これで、本当に理解できたことは確認できたのでしょうか。
「はい」と答えていても、
説明の意味まで理解できている。
なんとなく分かった気がする。
「分かりません」と言いにくい。
など、さまざまな状態が考えられます。
だからといって、「分かった?」が悪い質問というわけではありません。
問題は、「何を確認したいのかに対して、その質問で十分なのか」ということです。
例えば、
いまの話を、自分の言葉で説明するとどうなる?
と聞けば、競技者がどのように理解したのかが少し見えてきます。
次の1本では、何を意識する?
と聞けば、説明した内容を実際の行動にどうつなげようとしているのかが見えてきます。
質問を変えると、返ってくる情報も変わります。
「どうだった?」では、何を答えればいいのか
もう一つ、よく使うのが、
どうだった?
という質問です。
これも悪い質問ではありません。
振り返ることに慣れている競技者なら、
前半は力まず走れましたが、60m以降で接地が後ろに流れる感覚がありました。
と、自分なりに振り返ってくれるかもしれません。
一方で、
普通でした。
よく分かりません。
と返ってくることもあります。
そんなとき、
この競技者は何も考えていない。
とすぐに判断する必要はありません。
もしかすると、何について答えればいいのかが分からなかったのかもしれません。
例えば、
どうだった?
ではなく、
練習してきたスタートの動きは、今日はどこまでできた?
と聞けば、考える対象が明確になります。
質問を具体的にして考える範囲を絞ることと、コーチが期待する答えへ誘導することは同じではありません。
ただし、聞き方によっては誘導になるため注意が必要です。
何について考えてほしいのかを明確にする。
それも、質問を考えるうえで大切なことです。
質問は、「何を引き出したいか」から考える
指導者として質問の引き出しを増やそうとすると、
どんな質問をすればいいのか。
から考えたくなります。
でも、その前に、
この質問で、競技者から何を引き出したいのか。
を考えてみます。
理解を確かめたいのか。
練習の意味を考えてほしいのか。
別の可能性に気づいてほしいのか。
次に何をするのかを決めてほしいのか。
目的が違えば、質問も変わります。
今回はスポーツ指導で使いやすいよう、質問の役割を以下の4つに整理してみます。
CHECK → WHY → EXPLORE → NEXT
競技者から引き出したい4つのこと
① CHECK|理解・認識を確かめる
まずは、競技者が何を理解し、どのように認識しているのかを確かめたい場合です。
例えば、
いまの説明を、自分の言葉で言うとどうなる?
どのあたりから、動きが変わったと感じた?
と聞くことができます。
「分かった?」では見えにくかった、理解の中身や競技者自身の認識を確かめる質問です。
ここでは、深い答えを求める必要はありません。
いま何を理解し、何を認識しているのかを知る。
それだけでも十分です。
② WHY|意味・意図を考える
次は、「何のために」「なぜ」を考えてほしい場合です。
例えば、
この練習は、何を変えるためにやっていると思う?
なぜ今日は、その走り方を試そうと思った?
と聞く。
ただし、「なぜできなかったの?」のような聞き方は、相手によっては責められているように感じることもあります。
「何を狙っていた?」「何が影響したと思う?」など、建設的に考えられる形へ言い換えることも必要です。
同じ練習をしていても、
コーチに言われたからやっている。
のと、
自分の課題を改善するためにやっている。
のでは、競技者自身の捉え方は違います。
問いかけることで、練習の目的や、自分がその行動を選んだ理由に目を向けてもらうことができます。
③ EXPLORE|見方・選択肢を広げる
一つの考えに固まっているときには、別の可能性を探す質問もできます。
例えば、
ほかに原因として考えられることはある?
別のやり方を試すとしたら、何がありそう?
と聞く。
タイムが悪かったのは、練習不足だからだ。
と思っていた競技者が、
疲労もあったかもしれない。
ウォーミングアップも違った。
前半で力んでいた可能性もある。
と、別の見方に気づくことがあります。
すぐに正解を出すのではなく、考えられる範囲を広げるための質問です。
④ NEXT|次の行動を具体化する
考えたことを、次の行動につなげたいときの質問です。
例えば、
次の1本では、何を試す?
次の練習で一つ変えるなら、何を変える?
と聞きます。
振り返って、
後半で力んでいた
と感じたとしても、そこで終われば次の行動は決まりません。
では、次はどうする?
まで考えることで、気づきを次の試行へつなげることができます。
4つすべてを聞く必要はない
ここまで4つに整理しましたが、
CHECK → WHY → EXPLORE → NEXT
を毎回すべて聞く必要はありません。
理解を確認したいだけなら、CHECKで十分です。
競技者自身が原因を整理できているなら、
次はどうする?
とNEXTだけ聞けばよいこともあります。
大切なのは、質問の種類を順番どおりに使うことではありません。
いま、何を引き出したいのかによって質問を選ぶこと。
です。
質問すればいい、というわけではない
もう一つ注意したいのは、
良い指導者は、競技者にたくさん質問する。
と考えすぎないことです。
日本スポーツ協会(JSPO)は、プレーヤーズセンタードなコーチングを実現するためのアプローチとして、TELL(指示)、SELL(提案)、ASK(質問)、DELEGATE(委譲)を示し、状況に応じて使い分けることを説明しています。
ASKについても、競技者が自分で発見するための枠組みを提供したり、コーチが競技者を理解したりするために用いるものとされています。
一方で、コーチがあらかじめ持っている答えを競技者に言わせるためだけに質問するくらいなら、明確に指示した方がよい場合があることも示されています。
つまり、
質問すること自体が、良いコーチングなのではありません。
危険な動きをしているなら、明確に伝える必要があります。
経験が少なく、そもそも選択肢を持っていない競技者には、コーチから提案した方が考えやすい場合もあります。
質問も、指導するための一つの手段です。
競技者の答えだけでなく、自分の質問も振り返る
競技者に、
どうだった?
と聞いたら、
分かりません。
と返ってきた。
そんなとき、競技者だけを見るのではなく、
自分は、この質問で何を答えてほしかったのだろう。
と考えてみることもできます。
スタートについて聞きたかったのであれば、
スタートから10mまで、自分ではどう感じた?
と聞けたかもしれません。
練習の意味を理解しているか知りたかったなら、
今日の練習は、何を変えるためだったと思う?
と聞けたかもしれません。
競技者に考えることを求める前に、指導者自身が「何を考えてほしいのか」を考える。
質問に対する答えが曖昧だったときは、競技者だけでなく、自分の質問を見直す機会にもなります。
問いを投げる前に、目的を決める
「分かった?」も、「どうだった?」も、使ってはいけない質問ではありません。
広く聞きたいなら、「どうだった?」が適している場面もあります。
本人が「分かった」と感じているかを簡単に確認したり、そのまま説明を続けてよいかを確かめたりする程度なら、「分かった?」で十分な場面もあるでしょう。
大切なのは、決まり文句を別の決まり文句に置き換えることではありません。
理解を確かめたい。
意味を考えてほしい。
見方を広げてほしい。
次の行動を決めてほしい。
何を引き出したいのかを決め、そのための質問を選ぶ。
質問は、「何を聞くか」より「何を引き出したいか」から考える。
そうすれば、指導者の問いかけは、競技者に答えを求めるだけのものではなく、自分で考えるためのきっかけにもなっていくのではないでしょうか。
その質問で、何を引き出したいですか?