「予定通りやること」が、良い練習なのか
今日は身体が重い。疲労感もある。
ウォーミングアップをしてみても、いつものように動かない。
それでも、「今日のメニューは決まっているから、最後までやらないと……」と思うことはないでしょうか。
例えば、今日のメニューが、
10m加速+60m×4本
だったとします。
1本目を走っても、いつものようにスピードが上がらない。
2本目でも動きは変わらず、走りの質も落ちてきた。
それでも、予定表に「×4」と書いてあるから4本走る。
確かに、計画通りに練習することは重要です。
その日の気分で内容を変えてばかりでは、計画的なトレーニングはできません。
ただ、
予定されたメニューを最後までやることが、その日のトレーニングの目的なのでしょうか。
以前、「練習メニューを『消化する』って、どういうこと?」という記事でも考えましたが、メニューを終えることと、トレーニングの狙いを達成することは同じではありません。
守りたいのはメニューではなく「狙い」
トレーニングを、
課題
↓
狙い
↓
手段
と考えてみます。
例えば、スプリント能力を高めるという課題に対して、その日の狙いを、
高いスピードで、質の高い走りを反復すること
と設定した。
そのための手段として、
10m加速+60m×4本
を選んだとします。
この場合、「60mを4本走ること」そのものが目的ではありません。
狙った刺激を得るための手段として、このメニューを選んでいます。
ところが当日、身体が重く、普段のようなスピードが出ない。さらに本数を重ねるほど動きが崩れている。
そこで、
このまま4本続けても、今日の狙いにつながるだろうか。
と考えてみます。
予定通り続けるのか。
本数を減らすのか。
強度や内容を変えるのか。
守りたいのは、メニューそのものではなく、そのメニューで何を変えようとしていたのかです。
「調子が悪い=メニューを変える」でもない
では、「今日は身体が重い」と感じたら、メニューを変えればよいのでしょうか。
そう単純でもありません。
トレーニングの狙いによっては、ある程度疲労した状態で取り組むことが想定されている場合もあります。
そのため、「調子が良いか、悪いか」だけで決めるのではなく、
いまの状態で、このメニューを行うことで今日の狙いにつながるか。
と考えます。
その結果、予定通り行うこともあれば、本数や内容を調整することもあるでしょう。
大切なのは、変更するかどうかより、なぜその判断をするのかです。
計画には調整する余地があっていい
トレーニングには、当日の状態に応じて負荷や量を調整するAutoregulation(オートレギュレーション:当日の状態に応じて負荷や量を調整する考え方)という考え方があります。
特にレジスタンストレーニングでは、あらかじめ決めた負荷や量を固定するだけでなく、その日のパフォーマンスや疲労、トレーニングへの準備状態などをもとに内容を調整する方法が研究されています。
2021年のシステマティックレビューでも、日々変動する体力、疲労、トレーニングへの準備状態を踏まえ、トレーニング強度や量を調整する方法としてAutoregulationが整理されています。
なお、この研究は主に筋力トレーニングを対象としているため、すべての競技やトレーニングへそのまま当てはめるものではありません。
重要なのは、
計画を変える=計画性がない
ではないということです。
計画を持ったうえで、実際の状態を確認し、必要なら調整する。
計画の中に、調整する余地を持っておくという考え方もできます。
「調子が悪い」をそのままにしない
一方で、「今日はなんとなく調子が悪い」という感覚だけで、すぐにメニューを変えるのも慎重に考えたいところです。
例えば、
睡眠は取れていたか。
疲労感はどの程度か。
筋肉の張りはあるか。
ウォーミングアップの動きはどうか。
1本目、2本目の走りは普段と比べてどうか。
と、状態をもう少し具体的に見てみます。
アスリートのコンディションモニタリングでは、疲労感やストレス、気分などの主観的な情報も判断材料として用いられています。
Sawらのシステマティックレビューでも、アスリート自身による主観的なwell-beingの評価は、トレーニング負荷に伴う状態の変化を把握するうえで有用であることが示されています。
つまり、
「調子が悪い」という感覚は無視しない。でも、その一言だけで判断もしない。
自分が何を感じているのか。
実際の動きはどうなのか。
今日の狙いにどの程度影響しているのか。
そこまで整理して判断します。
なお、ここで扱っているのは、疲労感や身体の重さなど日々のコンディションの変化です。
明確な痛みや外傷、発熱などがある場合は、トレーニングの質をどう調整するかではなく、まず健康・安全を優先し、必要に応じて指導者や医療専門職へ相談する必要があります。
指導者がいるなら、黙って変えない
指導者からメニューを提示されている場合は、もう一つ大切なことがあります。
黙って変えないことです。
例えば、
今日は調子が悪いから、4本のところを2本でやめよう。
と自分だけで判断したとします。
本人には、「この状態で続けても走りの質が落ちる」という考えがあるかもしれません。
一方、指導者からは、
なぜ勝手に本数を減らしたのか?
苦しくなったからやめたのか?
と見える可能性があります。
そこで、
今日は疲労感が強く、ウォーミングアップから動きが上がっていません。
60mも2本とも、普段よりスピードが出ていない感覚があります。
今日の狙いが高いスピードで質の高い走りをすることなら、本数を減らすか内容を変えた方がいいと思うのですが、どうでしょうか。
と相談する。
ここには、自分の状態、今日の狙い、自分なりの提案があります。
ただ「今日はできません」と伝えるのとは違います。
自分の状態を把握し、狙いを考えたうえで、指導者と調整する。
これも、自分のトレーニングに主体的に関わる一つの方法です。
計画を守るためではなく、目的に近づくために練習する
練習計画は大切です。
その日の気分だけで変えるものでもありません。
ただ、計画を立てたときと、実際にトレーニングする日の自分が、まったく同じ状態とは限りません。
予定通り行う。
本数を減らす。
強度を変える。
内容を変える。
どれか一つが常に正しいわけではありません。
判断するときに戻りたいのは、
今日のトレーニングで、何を変えたかったのか。
という狙いです。
練習メニューは、その狙いを達成するための手段です。
予定されたメニューを終えることだけを目的にせず、いまの状態と狙いを照らし合わせて、その日に必要なトレーニングを考える。
計画を守ることより、狙いを守る。
そう考えることで、「調子が悪いからやめる」と「狙いを達成するために調整する」の違いも見えてくるのではないでしょうか。
そのメニューは、いまの状態でも狙いにつながっていますか?